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石割桜 ; 塗炭の苦しみ

石割桜 ; 塗炭の苦しみ

精神病院に無理やり入院させられた

半ば強引に車に乗せられた。すると、阿見町東京医大、霞ヶ浦病院の駐車場に入って行った。
「どういうこと?」
私には、まったく意味がわからなかった。
「診察してもらうんだ。」
 前もって打ち合わせ済みだという、医者の診察を時間外で見てもらい、医者は入院が必要だと言った。
 確かに、仕事と、保育園の子どもの育児やお金のやり繰りに疲れて果てていた。しかし、入院するほどひどくはなかったはずである。以前に、新聞の記事で、不登校の女の子が精神科に入院した所、薬漬けにされ、よだれが出て、本当におかしくなり、親の助けで退院したという記事を読んだことがあった。私は、精神科への入院など恐ろしくて絶対に嫌だと思っていた。
「入院は勘弁してください。通院しますから。」
と何度も医者に頼んだが、
「絶対、入院。」
と言うだけで、私の希望に耳を貸さなかった。そして入院しなければならない理由として、
「食欲もなく、眠れないということでは、通院では無理です。入院しかありません。」
とのことだった。私は、医者の前で、眠れないとか、食欲がないとは何も話してはいなかった。医者は何を言うのかと思った。
「食欲もありますし、寝ています。」
と言っても、医者は、
「食欲もなく、眠れないということでは、通院では無理なので、今から入院してください。」
と、同じ言葉を繰り返すだけだった。仕事と育児、お金のやりくりと疲れていたことから、すぐ眠くなる方だった。電車に乗るとすぐに眠ってしまい、乗り過ごすことが多かったので、眠れない事実はなかった。それでも医者は、
「ご家族が眠れないと言っていますから。ご家族は食欲がないと言っていますから。」
と医者は繰り返すのみだった。
「ですから、食欲はあります。寝てもいます。」
私がどんなに、訴えても、取り合ってくれなかった。家族がおかしいからと医者へ連れて行けば、医者はこの人間はおかしいからと、本人の話を一切聞かないのかと、腹が立った。なぜ、本人の話す真実を無視し、家族の嘘を真に受けるのかと、どうして聞いてくれないのかと、必死に訴えた。入院させられたら、薬づけにされて、殺されてしまうと本当に怖かった。死にたくはないから、必死だった。
私は聞き入れようとしない、医者の態度に、だんだん語気強く訴えた。誰でも事実を事実として聞き入れてもらえない状況では、声高になるはずであるが、この私の態度もおかしいからそのような態度なのだと診断される結果となった。
 長い間のやり取りの中、医者の話では、昼のうちに、家族が相談に来たのに対し、
「簡単に入院をさせるわけに行かないですよ。食欲がないとか、眠れないとかの症状がないと。」
と言ったところ、
「眠れないですし、食欲もないですから、ぜひ、入院させてください。」
と、家族と称した人物、あ、くじ、な男が、頼み込んだというのだった。なぜ、医者のほうから、入院にさせる基準を教えるのだろうか、家族と称した人物が、それに合わせて、食欲がなく、眠れないということにしたと気づかなかったのか。悪意で入院させようと考えていれば誰にでも出来ることだ。悪意のある人間は存在するのだから、医者は言動に注意をする必要がある。
 幾度も、食慾はあるし、眠っていると訴えた私の言葉を、医者がまったく無視し続けて話していた、『家族』とは誰を指すのかと、必死なやり取りの間中、頭の隅で気になり続けていた。『家族』とは誰なのか、不思議だ。ただそのことに触れているうちに、私に入院の意志がないという話を、うやむやにされたくなかったことから、疑問に感じながらも、そのことには触れずに、入院だけは勘弁して欲しいと訴えて続けていた。
『家族』とは誰のことか、夫であれば、普通、『ご主人』を使うだろうし、親であれば、『親御さん』との言葉を使うはずである。家族を装って、私を入院させる算段をし、家族へ手筈を整えたのは、いったい誰なのだろうか。その時の突然の状況下では、何もわからなかった。
 それにしても医者は、当事者とは赤の他人の嘘の言葉をもとに、薬を処方したことになる。こんな最低なことはない。私は、入院後、本当に神経がおかしくなって、それが戻るのに10数年も要した。
誤診により処方された場合、正常である人間に、抑制する薬を処方されるということは、運動神経が機能しなくなり、神経が滞ることになる。神経科の薬の処方は、二人以上の医者が処方すべきとしない限りは、処方できないようにすべきだ。そうでもしない限りは、誤診による薬の処方違いによる弊害が在る場合もあるだろうし、悪意ある家族に陥れられる人間もあるだろう。被害者の訴えは、おかしいのだからと相手にされなかった。病気を心配する家族を装う人間の嘘に基づいて、薬を処方された場合の恐ろしさを考えて欲しい。

 入院の準備の間、待つようにと指示があったが、私は納得がいかなかった。病院で薬漬けにされて殺されたくないと、すきを見て、逃げ出した。夫と実父が追いかけてきて、私の手を掴んだ。私は必死だった。入院をさせられてしまえば、生きて帰れないと、恐怖のあまりに、掴んでいる手を振りほどいては逃げ、またつかまり、また振りほどいて逃げるということを病院の駐車場で、繰り返した。男二人と女である私一人では、結局逃げ切られずに、医者の前に連れ戻された。
「このような凶暴な行動を取るようでは、入院しかありませんね。」
こんなことが、あるのだろうか。誰しも死の恐怖から逃げ出そうとするはずである。それを、凶暴とされるとは何事であろうか、何を訴えても、気狂いだからと、私の話すことに、耳を貸しはしなかった。

入院の前に、入院の同意書が必要とのことだったが、私はサインを拒んだ。入院をしたくない私は、入院の同意書にサインをする気になれず、断り続けた。医者は怒った。医者は、私が従わないことに苛立ったのか、ヒステリックにサインを指示した。そのとき、一番、神経が異常な状況だったのは、神経科の医者だったと私は思っている。腹立ち紛れに、入院する気のない私は同意書を破いた。すぐ、新しいのを用意されたが、それも続けて破いた。生きたいがための私の行動は、精神錯乱をしていると判断されたらしい。私は大勢の看護師に押さえ込まれていた。医者は特別室の用意の指示を出していた。
結局、本人に判断能力がないからとのことで、夫が同意書にサインをした。私は叫び続けたし、逃げようともがき続けた。この私の行動は、精神異常だろうか。入院をしたくないという本人の意思を無視して、強引に入院をする人間達から、逃れようとしただけのことだった。入院をしたくないとの明晰な動機に基づいた行動が、異常な行動として扱われた。

「注射を用意しろ。」と医者が叫び、看護師が注射をもってきた。何を注射されるかわからない私は、抵抗し、注射を取り返して、トイレに投げこんだ。結局、注射はまた用意され、何人もの人間に押さえ込まれ、注射された。注射の薬剤のために、一瞬のうちに意識が無くなった。こうして私は、凶暴な要注意患者として入院させられたのだった。
 病室は廊下と同じ床材で、部屋の半分ぐらいに畳を何枚か並べて置いている所に、布団を敷いているだけだった。部屋には、トイレもついているが、ドアがない。監視カメラが部屋にいくつも設置してあり、こともあろうかトイレにも向いていた。用を足すたびに、下半身を誰ともわからない人間たちに見られていることが、屈辱で耐えられなかった。


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